
The Living Tradition of BINGO INDIGO
受け継がれる藍染めの伝統
Photography: Ichi Nakamura/Words: W. David Marx
日本が世界に誇るクラフトデニムの生産地として知られる、広島県福山エリア。その原点は備後絣の伝統と、クラシックなアメリカン・ジーンズへの深い畏敬にあった。
古代日本文明は、その核となる思想を中国から取り入れ、独自に変容させることで生まれた。仏教、儒教、特定の工芸や建築様式、さらには文字に至るまで。こうした外来文化とともに伝わったのが「藍染め」であり、日本に初めて持ち込まれたのは千年以上前のことだ。日本の歴史の大部分において、全国の染め職人は、宮廷の貴族から野良仕事をする農民に至るまで、あらゆる人々のために、美しく機能的な藍色の服を作り続けてきた。そして封建時代の終わり、福山を中心とする広島県東部の備後地方は、藍染めによる「備後絣」の産地として知られるようになる。 やがて日本の伝統的な衣服が衰退し、化学染料への依存が強まったことで、古来の藍染め生産は減少の一途をたどる。しかしその後、この地域では新たな活力ある産業として「デニムのための藍染め」が産声を上げた。岡山県の児島地区は、日本で初めてジーンズの縫製が行われた場所として「日本ジーンズ発祥の地」を標榜しているが、世界的に有名なデニム生地そのもののルーツは、実は備後地方にある。今日、この地域は「藍染め」をミクロとマクロの両面で体験できる稀有な場所だ。「藍屋テロワール」が実践する小規模な農業と手仕事による天然の本藍染め、そして「プロジェクトボレーガ」による職人仕立てのデニムに、世界中の人気アパレルブランドに生地を供給する「カイハラ」の工業用デニム生地生産まで、その幅は多岐にわたる。

「事業を始めたきっかけをよく取材で聞かれるんですけど、特に綺麗な答えを用意していなくて」と、「藍屋テロワール」のオーナーである藤井健太さんは苦笑いする。「会社員時代、休日に藍染めを経験して、シンプルに藍の美しさに圧倒されました。すべてが自然の素材でできていることに感動を覚えて、それが発酵によって成り立っていることにも驚きました」。藤井さんは藍に魅了されたのをきっかけに職すくもを辞し、蒅作りを手掛ける藍師に弟子入り。2年の修行期間を経て、福山市内の山野町という小さな町で「藍屋テロワール」という新しい事業を立ち上げる。「藍屋」は藍染め職人を意味し、「テロワール」はワイン業界で「味わいを決定づける土壌」を意味する。 その構想は、単に自ら畑を耕して天然の藍栽培を復活させるだけでなく、染色工程のあらゆる部分を一つの屋根の下に集約することだ。チームで土を耕し、藍を植え、葉を選別して天日干しし、それを発酵させて、その場で染色するための「蒅」を作る。残った茎は地元の牛糞堆肥と混ぜられ、畑の土壌へと再利用される。循環型で持続可能なプロセスを、彼は見事に確立してみせた。藍の栽培は1年周期だ。2月の土壌作りから始まり、春には種をまき、夏には葉を収穫する。10月には乾燥させた葉を発酵させ、「蒅」を作り始める。この工程は約4ヶ月を要し、18週間にわたって「切り返し(※葉藍の山を切り返して酸素と水分を供給する作業) 」を行う。でき上がった蒅を使用して自社で染色を行う。天然藍を用いた基本的な染色工程において、藍は幾重にも色を重ねることで定着していく性質がある。合成染料と比較して、何度も染色を繰り返すこの手仕事は、およそ効率的とは言い難い。しかし、これらの作業によって藍は使い込むほどに鮮やかさを増し、美しく経年変化していくという。これこそが藍染めの最大の魅力とも言える。 藍屋テロワールが採用する日本の伝統的な「本藍染め」の手法では、何度も手染めを行うことで糸の中心まで染まり、合成染料と比較して色落ちしにくい、深い藍色が保たれる。とはいえ、ジーンズにこの技術を用いるとなると膨大な時間がかかり、必然的に高級品にならざるを得ない。藍屋テロワールでは、100%天然藍染めの糸を使ったジーンズを自社製造・販売しているが、その価格は1着25万円。開発には3年を要し、生産数はわずか50本だった。ここに、現代の藍染めにおける根本的な葛藤が見て取れる。本藍染めの手法は労働集約的であり、工業的な製造手段というよりは、職人のクラフトマンシップとして捉えるべきだ。しかし「藍染めは工芸から産業へと転換していく必要がある」と藤井さんは語る。事業の今後の課題は、長期的かつ経済的に持続可能な状況を作ること。そのプロセスの一部は「消費者の教育」にもある。伝統的な方法で染められた衣服の真の価値を理解してもらうには、製品に触れる機会をもっと増やす必要がある。この記事を、藍屋テロワールを訪れ、本藍染めの魔法を学ぶ招待状として受け取ってほしい。藤井さんの人生を変えたこの体験は、次にあなたの人生を変えるかもしれない。






